記憶の上書き
抗不安剤を再び飲み始めて、三日が経った。
過去の例から、
再び効果を発揮するまでには、約2週間。
この薬単独では無いので、
もっと早いかもしれない。
精神科の診察を受けたあと、
私は、不思議な事に気づいた。
自分の今の心情や、心の動揺、焦り・・・
それらは、どうして生まれて来るのだろう?
と言う疑問である。
私などよりもっと重症な患者が、
目の前を運ばれてゆく。
点滴を2本刺したまま、
パンを食べている人もいる。
彼らは、何故治そうとするのか・・・?
そう言えば、自分も、心不全で入院した時、
二週間危篤が続き、
ICUから出て、一般病棟に移った時、
足の筋肉が衰えて、
全く自力では立てなくなった。
それなのに、毎日、
廊下を、看護婦さんに支えられながら、
歩く練習をした。
そして、車椅子の状態で退院し、
リハビリに週に2度通い続けた。
私は、何故、歩きたかったのか?
何故、せっせと通ったのか?
病気を乗り越えるには、
何か、目に見えない力が、
人を動かすのではないか・・・・
この三日間、そればかり考えていた。
「生きる意味」を問うのではなく、
「何故人は生きるのか」でもなく、
他に、『何か』がある!
最初は、夢を持つ事かもしれない、
とも思ったが、
「夢」は意外と冷淡で、冷酷だ。
私は、これまで、
過去の記憶の中で生きて来た。
過去の記憶に縛られ、
もがき、苦しみ、焦燥感と、悪夢を、
いつも脳裏によぎらせて来た。
それらからは、
どんな事をしても、
逃げられない。
そう、ずっと思って来た。
だが、
答えは、そんな所には無かった。
過去の忌まわしい記憶は、
これからも永遠に残るだろう・・・・・・・
しかし、私は、忘れていた。
古い記憶を消すのではなく、
新しい記憶───
より素敵な、新しい記憶を、
「上書き」すれば良いのではないかと?
もし、新しい素敵な記憶がたくさん増えれば、
過去の記憶は、少しは薄れてゆく。
少なくとも、真っ先に出て来なくなるかもしれない。
過去の記憶も、
勿論、自分の記憶だが、
その「思い出」だけで、
人は生きてはゆけない。
新しい記憶を積み重ねる事で、
人は、生きる糧を得ているのだろう。
休日ともなれば、
渋滞に巻き込まれると分かっていても、
人は、どこかに出掛ける。
それによって、
新しい記憶を上書きして、
仕事の辛さを相殺しているのかもしれない。
何も、無理して、無駄ずかいを否定する事はないのだろう。
それが新しい記憶として、脳に上書きされてゆくなら。
ゆっくり進めばいい。
もし、途中で、
仲間に出逢ったら、
それは幸運かもしれない。
私は、身体の調子が良い時は、
新しい記憶を作るために、
外に出ようと思う。
自分に出来る事を、
ただ、それだけを、
無理せず、
ただ、焦らず、
ただ、ゆっくりと、新しい記憶を見つける旅を、
これからは、続けたい。
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