生体内発電可能な光熱発電素子を開発
心臓ペースメーカーや線維筋痛症のインプラント脊髄鎮痛刺激、糖尿病患者の体内インシュリン投与など、さまざまな体内埋め込み型医療機器の需要が世界中で高まっているが、現在は、リチウムイオン電池が主流となっていて、その寿命は10年程度。
電池交換やデバイスメンテナンスのための大掛かりな外科的手術が繰り返される事で、患者への大きな負担となっている。
手術を伴わない電池の充電方法として、スマートフォンで実用化されている電磁誘導によるワイヤレス充電があるが、強度電磁波による生体への影響や、医療機器内の電子回路の誤動作などが大きな問題となっている。
そのため、生体内に埋め込まれたデバイスへの安全な遠隔電力供給システムが求められている。
独立行政法人 産業技術総合研究所 健康工学研究部門ストレスシグナル研究グループの 都 英次郎 研究員らは、光によって容易に発熱可能なカーボンナノチューブ(CNT)の特性(光発熱特性)を熱電変換素子に組み入れることにより、生体内で発電できる新たな光熱発電素子を開発し、2011年12月1日、欧州の化学ニュース配信サイト ChemViews Magazine に掲載されました。
カーボンナノチューブ(CNT)は、ナノ炭素材料の一つとして大きな注目を集めているが、溶媒に分散しにくい点が応用上の制約となっていた。今回、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)を用いると、CNTをシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン;PDMS)中に均一に分散できることを見いだした。このCNTを分散させた樹脂は生体透過性の高い近赤外レーザー光によって発熱する。
今回開発した光熱発電素子により、心臓ペースメーカーなどの数多くの体内埋め込み型やウエアラブル型医療機器などへの光による遠隔電力供給システムの実現が期待される。
心臓ペースメーカーの役割は、心房ブロックによって電気刺激が心室に伝わらない事を防ぐための医療機器で、定期的な心房の収縮なしには、心室の筋肉も収縮しなくなり、全身への血液循環が滞る。
心臓の電気刺激は、心房から心室へと伝搬するので、レーザーオンの時、心室の拍動に変化があっても、心房の拍動に変化が無ければ、安全性は高いと言うかもしれない。
いずれ一度、心臓ペースメーカーやICDなどの医療機器を植込むと、一生涯、電池交換やメンテナンスのために切開手術を繰り返す事になるので、生体内で充電可能な技術が進歩する事を期待してやまない。
一時は、筋肉の動きによって充電する、生体筋電発電や体内の熱エネルギーで充電する方法も考えられて来たが、いずれも見通しは立っていない。
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