最近の十代や二十代の映画はあまりに軽薄で、安易で、「死」を美化し過ぎるし、伝染病のようにバタバタ死ぬ映画ばかりが氾濫してしまい、かなり食傷気味になっていた。
多部未華子ちゃん主演の映画『君に届け』は、そんな軽薄でお涙頂戴傾向の日本映画の中、久しぶりに「優しい」物語に出会った訳だ。
多部未華子と言えば、ドラマ「ヤスコとケンジ」の妹役・ヤスコが直ぐ思い浮かぶ。
この時の、天然スットコドッコイ役がはまり役で、シリアスとコメディと、そり表情が他の女優より群を抜いてるなぁと感心したのだったが、今回の「君に届け」でもその素っ頓狂ぶりは、ずば抜けた才能と言えるだろう。
爽子と書いて何故か"貞子"と呼ばれてるヒロインは、至って慣れているようで、嫌がらせとは全く思っていない。
しかもその髪型から、"貞子"と言えなくもない・・・という実にこじつけの設定だが、その雰囲気が無いのは、無機質な都会ではなく、栃木県という自然に囲まれた風景と一体化する映像が、見る人を心地良くさせているのかもしれない。
とかくこの手の映画は、校舎内と教室内だけで描かれたり、あとは病室とグラウンドと夜の繁華街・・・。
そんな設定ばかりの青春映画が模倣のように作られ続けて来たため、特に「携帯小説」を原作とする映画は、視野が狭く、何かと言えば繁華街や、教室の中だけに限定され、挙げ句に癌や白血病・・・おまけに台風で肺炎になり死んだり、最終的には交通事故で終止符を無理矢理押し付けたりと・・・・酷い映画ばかり
しかし「君に届け」は、高校時代と言う、人生で最も輝いている時期を丹念に撮り集め、新芽が芽吹くように暖かく見つめる作品になっている。
この映画を見ていて、少し前のドラマのストーリーが浮かんできた。
2000年に放送された、ともさかりえ主演の「君が教えてくれたこと」。
このドラマは主人公の雨宮繭子(ともさかりえ)が、高機能自閉症で自分の感情を人にうまく伝えることができず、他人の言葉をそのまま受け止めてしまう純粋な心を持ち、恋という感情を知らずに育つ。
しかし自分を唯一人信じてくれる元精神科医と巡り会う事で、初めて、その感情が恋というものだと知ってゆく・・・と言う物語である。
君が教えてくれたこと 2000年/TBS/DMM.com
映画「君に届け」を見ていて、この「君が教えてくれたこと」とダブって見えてしまった。
多部未華子の演じる爽子(さわこ)は高機能自閉症とは違うが、初めての事に対しては臆病で、誰かが喜んでくれるなら何でも引き受けてしまう。
特に、恋愛や恋に対しては慎重と言うより、これまで経験した事の無い気持ちに動揺したり、友達が何故不機嫌になっているかさえ分からない・・・・この辺が、「君が教えてくれたこと」とそっくり。
ただ共通しているのは、好きになった相手が、自分の事だけを一生懸命慕っていてくれている。その事に気づいて、だから一緒にいたい・・・ただそれだけの気持ちが、恋、だと知る。
この背景には、普通の高校生活が丹念に織り込まれてる事が、より輝いた相乗効果を出している。
校内の自転車置き場。校門の前。通学路の風景。長閑な樹木と山脈。門限。バス通学。学校行事等々。
これら当たり前の情景が随所に織り込まれ、良質な作品に仕上がっている。
ただし、上映時間が長い
2時間越えるような作品では無いし、桐谷美玲が横やりを入れて来るシーンは、多部未華子演じる爽子には全く影響しない訳なので、必要無い。その後、結局、謝っているが、爽子自身「二人はお似合い」と本気で思っていたので、この絡みのシーンは邪魔に思えた。
そんなわけで採点としては10点満点中、9点・・・と言いたい所だが、ちょっと残念な所がある。一応、男の友達が野球部員として出ているが、クラブ活動をしている生徒が他に見当たらない事。それに女子生徒のチェックのスカートが短い。あれではパンチラ確実。ほとんどコスプレになってるじゃないか
明治学院高校の制服
普通、この程度の長さだろう
学習院はもう少し長いそうだから、映画のスカートは短すぎるのでは。吹奏楽部とか、絶対、パンツ丸見え
そんな訳で評価は8点という事に。
いずれにしても、久々に病気で死なない映画に出会えて、実にすがすがしい。
携帯小説に端を発し「世界の中心で・・・」から火がついた、うんざりする程の安易な「お涙流せ」的発想の低脳映画が、これを機に終焉を迎えてくれる事を祈るしかない。
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